校長室の小窓から⑭
「なくてはならないもの」
ポーランドのワルシャワでは5年に1度のショパン国際ピアノコンクールが開催されています。過去最多の 642 人の応募の中で、予備予選への切符を手に入れたのは 171人、そのうちの 85 人がこの本大会への切符を手にしています。日本人が 13 人も選ばれているのは喜ばしい限りです。しかし、ステージ 1 からステージ3、そしてファイナルへと、まだまだ険しい道のりが続きます。
前回 2021 年のショパンコンクールでは、反田恭平さんが 2 位、小林愛実さんが 4 位という日本勢ダブル入賞の快挙が印象的でした。反田さんは「未来の演奏家育成事業」など、奈良県を拠点に活動されています。そして、音楽についてこう語っています。「空気のようなもの。水のようなもの。なくてはならないものなんですよ。」
NTT ドコモの『モバイル社会白書』の巻頭言「新たな価値創造の時代に向けて」と題して、「SNS はそれぞれの世代のコミュニケーションになくてはならないもの」と記されています。LINE は 10 代~60 代と幅広い年代に利用されており、Twitter と Instagramは 20 代以下を中心に、Facebook は中高年を中心に利用されているといいます。前任校で、保護者の方から「子どもが家に帰ると SNS やゲームばかりで困っていますが、何か良い方法はありませんか」と相談を受けたことがあります。「スマホを解約されたらどうですか」と言うと、「そんなことをすれば友だちがいなくなります」と返答されました。SNS が友人関係そのものなのだということかもしれませんが、「我が子が大学生になるまではスマホもゲームも不要」ということを貫いてきた私には、コミュニケーションの意義について考えさせられた出来事でした。
「音楽は、陸上競技のタイムやサッカーの得点と違い、客観的に 1 位とわかるものではなく、新記録のようなものが出る世界でもない。おのれの芸術の価値はおのれで決めたい」と反田さんは語っていますが、芸術だけでなく人生の大半が順位や新記録をつけられるものではありま
せん。自分の人生の価値は他人が決めるものではなく、自分が決めるものです。
反田さんはこうもおっしゃいました。「芸術家は孤独だが、僕はほかの誰かのために弾く」
令和7年 10 月 10 日(金) 金光八尾中学校高等学校 校長 松井 祥一